「二重人格」

いつの間にか大学四年生になった。

 

そしてもう半分通り過ぎた。

 

今日で夏休みも終わり、明日からは後期の授業が始まる。ボクの後期の授業はゼミだけだから、もうしばらく夏休みが続く。

例年に比べてこの夏はゆっくりできたと思う。

今だって、実家の窓際でのんきにこの原稿をカタカタ打っている。まだ午前中だ。

車の音、信号の音、誰かの笑い声、窓から入ってくる情報は心地よい。

 

寮の部屋で聞く音と似ている。

どこにいたって同じなのかなあ、なんて。

 

友達が次々に寮を出て一人暮らしを始める中、ついにボクは寮を出ることはなかった。

一度だけ本気で一人暮らしをしたい、と部屋探しをしたことはあった。だが、人生の中で一人暮らしをする機会はいくらもあるが、この寮で暮らせるのはたった四年だけだ。いまそれを逃すのは勿体無いと思いとどまり現在に至る。

 

寮で暮らしたから出会えた人も多い。

「はせぶら」の相棒であり、公私ともに交流の深い『ふじけん』(連載開始三週目に登場した「ぶらこうじ、という男」のぶらこうじ、その人である)も同じ寮で、食堂で一緒にご飯を食べながら世の中に対する不満を言ったりと毒抜きをして仲良く過ごしている。

 

この頃は後輩たちと過ごす時間も多くなった。

思えば、ボクが一年生の頃も四年生の先輩とずっと一緒にいた。

 

四年生と一年生。

 

付き合いの長い一つ下や二つ下の後輩よりも距離が近い。中学でも高校でも被らない年齢差だから、逆に気を遣わないのではないかと思う。

ボクなんか特に、ポスターの人だ、とか、テレビに出てる人だ、などと周囲から距離を置かれがちだから、緊張せずに懐に飛び込んでこられると嬉しいものだ。

 

ボクはステージの上と普段とではまったくの別人らしい。自覚はないが。

 

後輩に何度も言われる。ステージに立っている時のボクは本当に大きく見えると。

初めて実物を近くで見た時は本人だと分からなかったそうだ。

 

こういうことは他人から言われないと分からないもので、実に面白い。

 

だが、何故そうなるのかという理由は分かる。

 

小学生の時、演劇をやっていた頃からそうだったのだが、ステージに立つ時は勝手に、しかもいつの間にかスイッチが入る。それがオンになる瞬間は分からない。

だから、二重人格みたいなもので、都合よく自分を使い分けているようだ。

 

それが今でもずっと続いている。

スイッチがオンになる瞬間こそ分からないが、あ、いまオンになってる、というのは分かる。

 

ライブの本番の日、テレビの収録の日、打ち合わせの日、リハーサルの日。

いったいどのタイミングで別人二十八号に変身するのだろうか。

 

ちなみに、オフの時のボクは救いようのない変態であるから、なるべく会わないほうがいい。