「濃い夏」

まだまだ暑いが、八月のことがすでに懐かしく、また恋しくもある。

 

この夏は、去年に比べてライブの本数が少なかった分、一つひとつが濃厚だった。

単独ライブが二度あった、というのも大きい。

 

昨年から始まったギター一本と歌声のみの一番小さな編成でお届けするアコースティックライブ「万有引力」を、今年はご縁ができたばかりの北九州『昭和の時代』というお店でやらせていただいた。

 

昭和の時代・・・

 

名前を聞いただけでニヤニヤが止まらない。ここで歌わずしてどうする! と心に訴えかけてくる店名だ。

 

そしてつい先週のことだが、こちらも初めての『天拝いこいの館』で単独ライブを開催していただいた。

いこいの館は筑紫野市だから、福岡でのボクの地元になる。

この地元の熱気は特に凄まじかった。八年間の音楽活動で数百本のライブをしているがトップテンに入る。

入場した瞬間から大きな拍手に包まれ、一曲目の「熱き心に」を歌い終えると、また熱い拍手。

「落陽」「イミテイションゴールド」と続いて、ライブ定番曲の「星のフラメンコ」。

フレーズの合間に入る『チャチャチャ』のリズムは、大抵どこの会場でも最初はバラバラだが曲の後半に行くにつれて揃ってくるものだ。

 

今回は違った。

 

最初からいきなり揃っていた。

おお、さすがすごいな! と感心していたのも束の間、本来リズムが入らないところでも自由に手を叩きだして、皆さん歌そっちのけで笑いながら、合わなさ加減を楽しんでいた。曲が終わりに近づく頃にはリズムも拍も何も関係ない世界になっていた。

しかし、これはこれで成立しているのだ。会場がひとつになった。

 

『出張歌声喫茶のコーナー』では、会場の皆さんと一緒に「星影のワルツ」を歌うというのがお決まりの流れ。

いつも歌前のMCで、『五十一年前の千昌夫さんの名曲です、何の歌でしょうか?』と客席に向かって尋ねると、ほとんどの方がしっかり「星影のワルツ!」と答えて下さるのだが、今回もまた違った。

真ん中あたりに座っていらした女性が、

 

『干し柿のワルツ!』

 

この日イチバンの笑いを取ったのは紛れもなくこちらの女性である。

 

ライブが始まった瞬間からアンコールまで、客席の皆さんの表情はずっと穏やかで、時に真剣に、また、笑顔だった。ライブを作り上げていたのはボクではなくお客様だと実感した。

 

ライブの予定時間は一時間三十分。喋りすぎて二時間になってしまった。

 

本番中に急きょ一曲削ってこの時間である。

 

今回もっとも気になったのは、歌っている時に泣いている人がいつもより多かったことだ。

昭和の歌を歌っていることもあるが、この現場にはよく遭遇する。

 

歌は栞だ。

 

メロディが流れてくるだけで、その歌を聴いていた頃の、心のページが開く。

 

お客様はボクの歌声で泣いているのではない。

 

あの頃の自分に会って、泣いているのだ。

あの頃好きだった人、あの頃そばにいた人、今はもういない誰か。

心の中にそっと、会いたい人たちが現れる。

 

想い出の歌に包まれている時間だけ、あの頃の続きになる。

 

そんなお手伝いができる幸せ、これだからステージはやめられないのだ。